日本企業の競争力が乏しいといわれて久しいけれど、その原因については色々考察されているよね。
よく言われるのは、賃金の低さ。外資系の給料が日本企業の給料より高いのなら、前者に就職するよね。
でも、比較的給料の高い企業でも、国際競争力の低さは指摘されているね。
今回紹介するのは、その日本企業の弱点を射てきた本、世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)だよ。
この本によれば、日本企業が「論理」や「理性」を重視しすぎのが日本企業の国際競争力の低さ、そして、不祥事の原因だそうだよ。
今日は、そんな日本企業の弱さを読み解いていこう。
※以下、著書の内容から「理性」という言葉が多用されますが、道徳性という意味ではなく、論理的な判断力という意味だとご理解の上お読みください。
論理と理性だけでは成長できない
スティーブ・ジョブズは感性を大事にした
世界でもっとも知られた起業家といえばいろいろいるだろうけれど、その一人にスティーブ・ジョブズがいるよね。
Appleの作った製品はデザイン性に優れている。
スタバにいる意識高い系大学生がlenovoやvaioじゃなくてMacを使うのも、そのデザイン性の高さが原因だろう。
ではそんなAppleの創業者、スティーブ・ジョブズは直感についてこういっている
インドの否かにいつ人々は僕らのように知力で生きているのではなく、直感で生きている。そして彼らの直感は、ダントツで世界一というほどに発達している。直感はとってもパワフルなんだ。僕は、知力よりもパワフルだと思う。この認識は、僕の仕事に大きな影響をあたえてきた。 -世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか
ジョブズは論理的に説明できないことでも言葉巧みにねじ伏せて社員にやらせる癖があったそうだけど、その結果がiphoneやMacだったならば、直感の大切さが思い知れるね。
論理と理性の限界
筆者は、論理と理性には限界があることを説いているよ。
論理・理性には時間がかかる
まず、ここで論理的解決の特徴を考えてみるよ。
それは、問題をシンプルに考えるということだよ。
複雑な問題を解決するにあたって、糸を一つ一つほどけば意外とシンプルに解決できる、というのが、筆者の考える「論理的戦術」だよ。合理的な考えで有名な堀江貴文氏も、シンプルに考えることに定評があるし、その意見が正論とされることは多いよね。
でも、現実はそうシンプルにいくものではない。
まず一つ目の問題として指摘したいのが、グローバル企業の幹部が今後向き合う極めて難易度の高い問題について、論理的かつ理性的な思考アプローチが難しくなっている、という点が挙げられます。
(中略)
さて、このような問題、つまり「論理的、理性的にシロクロがつかない問題」について、あくまで論理的かつ理性的に答えを出そうとすれば何が起こるでしょうか?
答えは一つしかありません。それは「経営における意思決定の膠着と、その結果としてのビジネスの停滞」です。-世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか
論理だけで考えると、どうしてもなかなか時間がかかる。
考えて結論が出ないのであれば、直感で即決した方がいいんだね。「考えるな、感じろ」って奴だね。
差別化の喪失
もう一つ、著者は論理的かつ理性的な決断の欠点を説いているよ。
それが、差別化の喪失だよ。
今日、多くのビジネスパーソンが、論理的な思考力、理性的な判断力を高めるために努力しているわけですが、そのような努力の行きつく先は、「他の人と同じ答えが出せる」という終着駅、つまりレッドオーシャンでしかありません。そしてまさしく、多くの企業はこのレッドオーシャンを勝ち抜くために、必死になって努力しているわけです。-世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか-
論理というものは、同じ命題に対しては同一の解が出るという性質があるね。ということは、論理的な考えをしたところで、行き着くところは同じというわけだ。人と違った考えをするためには、感性を鍛える必要があるんだね。
なぜ「選ばれたのは、綾鷹でした」なのか-レッドオーシャンとブルーオーシャン
論理と理性だけの人間が陥る罠
「違法ではないは不適切」の危なさ
漫画村問題やネットいじめでも言われたていることだけど、現在は社会の変化スピードが速すぎて、ルールが追い付いていない時代になっているね。
そんな時代こそ、「違法じゃないから大丈夫」だと思っていると痛い目に合うんだ。
筆者は、日本の新興企業における美意識のなさを、DeNAの 例を挙げているよ。
かつてはモバゲータウンで一世を風靡したDeNA、現在は最盛期を過ぎたようにも思うけれど、現在もなお残る社会問題を生み出したよ。
コンプガチャだね。
現在も似たサービスが多くのゲームで横行しているけれど、その商法を考案し、広めたきっかけがDeNAやGREEだね。
しかしこのコンプガチャ、現在はサービスを停止している。
というのも、2012年、消費者庁に景品表示法違反を疑われたんだ。
それ以降、DeNAを含むコンプガチャに手を出した会社すべてがコンプガチャを停止したよ。
現在横行しているソーシャルゲームも、ここから着想を得ていると思うけれど、子供が何十万も簡単に使ってしまえるシステムは、近いうちにサービス停止されるんじゃないかというのが僕の考えだよ。
そしてもう一つの問題が、2016年に起こったWELQ問題だね。
DeNAが運営していた、医療問題を取り扱うキュレーションメディアWELQが、誤情報の記事・著作権違法の無断転載などをしていた問題。
悪質と考えられたのは、SEOの悪用。
簡単に言えば、たとえばGoogleで「肩こり」と検索した人が見るのはせいぜい1ページ目まで。2ページ目、3ページ目まで見る人はわずか。
ではどうすれば検索上位に乗るかといえば、「肩こり」というワードを記事内にたくさん入れること。
もちろん、それで読まれなくなったら次第に順位は下がるんだけど、よいスタートダッシュをするためにはそういう手法を使うんだ。
それでサジェスト汚染に乗っかった卑劣で人間性のない・人権無視のサイトがあふれかえっているのが現状なんだけどね。
「ゆいかおりは不仲だった」というデマからサジェスト汚染を考えるーマスゴミと化したブロガー
こういう風に、論理的・理性的な判断だけで、美意識とか良識とかいうのを軽視すると、倫理的に問題のあることに手を出しかねない。DeNAはその典型的な例だったんだね。
なぜオウム真理教は高学歴信者を獲得できたか
そしてもう一つ。論理と理性だけでは道を踏み外す例が提示されている。
1995年、オウム真理教事件だ。
その中でよく話題となるのは、幹部の学歴。
実際はいわゆる社会的弱者も多かったそうだけど、東大理学部卒、京大法学部で司法試験最年少合格者、早稲田大理工学部主席卒業者など、学問的に極めて優秀な人達も幹部だった。
でも、そんな高学歴な彼らには美意識が足りなかった。
オウム・シスターズの舞いを見たとき、あまりの下手さに驚いた。素人以下のレベルだった。あっけにとられながら、これは笑って見過ごせない大切なことだ、という気がしてなかった。オウムの記者会見のとき、背後に映し出されるマンダラがあまりにも稚拙すぎることが、無意識のままずっと心にひっかかっていたからだ。(中略)
麻原彰晃の著作、オウム真理教のメディア表現に通底している特徴を端的に言えば、「美」がないということに尽きるだろう。出家者たちの集う僧院であるはずのサティアンが、美意識などかけらもない工場のような建物であったことを思い出してほしい。 -宮内勝典「善悪の彼岸へ」-
もう一つ、オウムに特徴的だったのが、教義が極めてシステマチックなこと。
小乗、大乗、金剛乗といった階層性が強調されるばかりで、アンダーラインを引いて受験勉強でもするような、極めてシステマティックな教義である。その通りに修行すれば、高みへ行ける、一種の超人になれるという、通信教育のハウツー・ブックのようだ。-善悪の彼岸へ-
社会は残念なことに、論理だけではやっていけないところがある。それに不満を持っている偏差値エリートにしてみれば、オウムの単純明快なドクトリンは魅力的に見えただろうね。
しかし、システマティックだからこそ、逆にあれほど倫理的に問題のある組織に簡単に丸め込まれてしまったのだろう。
論理だけの人間から脱出するために
アートがサイエンスをはぐくむ
では、論理だけに頼って道を踏み外さないようにするにはどうすればいいか。
一言でいえば、アートを鑑賞するだよ。
ミシガン州立大学の研究によると、ノーベル賞受賞者(科学部門)は、一般人とくらべて、2.8倍も芸術的趣味を保有している確率が高かったというよ。
なお、一般科学者は一般人との違いは見られなかったが、ロイヤルアカデミー会員は1.7倍だったそう。
でも、この研究チームはアートと科学的能力の因果関係を仮説レベルにしか説明していない。
早い話、お金があるからアートを楽しめると思ってしまうね。
でも、別の研究ではこのひねくれた考えも否定される。
2001年のエール大学の研究によれば、アートを用いたトレーニングをすると、皮膚科の疾病に対する診断能力が56%向上するという結果が出たそうだよ。
これもまた反論を考えられるけれど、今は素直に従っておこう。
アートはサイエンスと関連性がある。
思えば、アインシュタインの相対性理論などは、単に論理だけではなく、「不変なのは時空じゃなくて光速の方では!?」という発想の転換が発見のきっかけになった。
ノーベル賞級といわなくても、優れた発想をするにおいては、芸術や文学に触れるとよいと、著者は書いているよ。
今回はここまでだよ。
僕も、すぐれた美意識を鍛えるために文学や音楽にに親しむ毎日を送るよ(^●ω●^)